自転車シェアリングにおけるインセンティブによる行動変容

自転車シェアリング
自転車シェアリング論文
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自転車シェアリングでは、朝や夕方のラッシュ時にステーションが空になったり満杯になったりして利用できなくなることを防ぐために、自転車を満杯のステーションから空のステーションにトラックで運んで「再配置」している。

もう一つの手段としては利用者にインセンティブを与えて近くのステーションで返却・貸出して貰う方法がある。
これはゲーミフィケーションの応用の1つである。
つまり、賞金のようなインセンティブを与えて利用者の行動変容を促すのである。
利用者にとって、そのインセンティブが魅力的で、必要となる行動が合理的であれば進んで再配置を助ける人が多くなる。

本記事ではこういった、自転車シェアリングにおけるインセンティブによる行動変容に関する論文や理論をまとめる。

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インセンティブとは

インセンティブは利用者に金銭的報酬を支払い、使ってもらいたいステーションに誘導するプログラムである。

例えば、借りたいステーションの近くに満車になりそうなステーションがあるとする。
このときは、利用者にポイントを渡して、わざわざ満車になるステーションで借りてもらう。
返却するときも同じで、利用者にポイントを付与する代わりに、わざわざ空になるステーションで返却してもらう。

このように事業者だけが自転車を再配置するだけではなく、利用者にも手伝ってもらうというのがインセンティブプログラムの基本的な考え方である。

需要の不均衡さを対処する他の手法については以下の記事にまとめている。

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Citi Bikeのインセンティブプログラム

世界中の自転車シェアリング事業者の中でNew YorkのCiti Bikeという自転車シェアリング事業がインセンティブプログラムを採用しているため、これについて紹介する。(2020年5月現在、Lyftが運営している)

Citi Bike: NYC’s Official Bike Sharing System | Citi Bike NYC
Experience the best way to get around Manhattan, Brooklyn, Queens & Jersey City with Citi Bike, New York’s bike share system.

CitiBikeではBike Angelsというオプトイン型のインセンティブプログラムを導入している。
空になりそうなステーションや、満杯になりそうなステーションに15分ごとにポイントが設定される。
利用者はポイントを貯めることで、メンバーシップを延長できたり、商品を受け取ったりすることができる。

日々の移動の中で少しルートを変更してポイントを貯める人がいれば、下の動画のように一種のスポーツゲームかのように熱狂的にポイントを貯める人もいるのはすごく面白い。
リーダーボードでポイントの獲得数のランキングが出ることもモチベーションの1つになっているのかもしれない。

The Point of a Ride – Short Documentary

2017年のこの記事によると、Bike Angelsによって再配置される車両の数は全体の10%以上を占めている。
また、インセンティブを与えられたトリップ数は全体の約1 %である。
少し古い情報なので、これは変化しているかもしれない。

研究事例

インセンティブプログラムは研究者の注目も集めており、多くの論文が書かれている。
いくつか取り上げて概要だけメモしておく。

Bike Angels: An Analysis of Citi Bike’s Incentive Program

COMPASS ’18: Proceedings of the 1st ACM SIGCAS Conference on Computing and Sustainable Societies
論文のリンク

CitiBikeにおける動的なインセンティブ手法を提案した研究である。
リアルタイムデータを使わないOfflineのインセンティブスキームをベースラインとして、リアルタイムデータを使うOnlineスキームの有効性を示している。

利用者にとってリアルタイムでステーションのポイントが変化するより、一定の間隔で固定されていたほうが良い。
したがって、リアルタイムデータを使うが、15分ごとにインセンティブのポイントを決定する手法が提案されている。
この研究で提案されている手法は実際にCitiBikeのBike Angelsプログラムに採用されている。

A Bike-sharing Optimization Framework Combining Dynamic Rebalancing and User Incentives

2020 ACM Transactions on Autonomous and Adaptive Systems
論文のリンク

再配置とインセンティブの両方を考慮したモデルを作り、

  • 休止時間(ステーションが空 or 満杯の時間)
  • それによってキャンセルされたトリップ数

の最小化を行っている。

インセンティブによって、単純に再配置だけを行うよりも低コストでより高いサービス品質が得られることを示している。
また、静的(特定の決まった時刻)ではなく動的な再配置とインセンティブを組み合わせることでコストを抑えられることを示している。

Incentivizing Users for Balancing Bike Sharing Systems

2015 AAAI
論文のリンク

オンライン学習における後悔最小化を用いて、最適なインセンティブ価格設定ポリシーを採用したインセンティブシステムを設計。
過去データに加え、アンケート調査で得られたデータをもとにシミュレーションを行い、さらに、実際に自転車シェアリングシステムのスマートフォンアプリを用いて提案システムを展開し、その結果を報告している。

Bidirectional Incentive Model for Bicycle Redistribution of a Bicycle Sharing System during Rush Hour

2016 Sensors
論文のリンク

ステーションを変えさせるのではなくて、通勤時間を変えるインセンティブを導入している。
また、旅行者には需要を均一化する方向に促す。
この両方を指して、Bidirectionalと言っている。

次の3つのシナリオを検討して、BSSの利益最大化のための最適な条件と戦略を見つけている。

  • 国からの補助金を受けずに事業者がBIMを導入する場合
  • 国からの補助金を受けて事業者がBIMを導入する場合
  • 政府と事業者が協力してBIMを導入する場合

Dynamic Vehicle Redistribution and Online Price Incentives in Shared Mobility Systems

2014 IEEE Transactions on Transactions on Intelligent Transportation Systems
論文のリンク

再配置の経路決定とユーザへのリアルタイムの価格インセンティブの組み合わせにより、自転車シェアリングシステムの効率的な運用を検討している。

Using gamification to incentivize sustainable urban mobility

2015 IEEE First International Smart Cities Conference (ISC2)
論文のリンク

自転車とは直接関係ないが、マルチモーダル交通についてインセンティブを利用して自家用車からのシフトを促す手法が書かれている。
このように、モビリティ全体の最適化に向けてインセンティブを適用した例も数多く存在する。

この論文では、イタリアのロヴェレート市で実施された実証実験の結果について議論しており、推奨された移動手段に大幅にシフトさせることができることを確認している。

まとめ

本記事では自転車シェアリングにおいて、利用者に金銭的報酬を与えて都合の良いステーションに移動してもらうというインセンティブプログラムについて紹介した。

多くの研究がされているようにインセンティブスキームは複雑な需要やオペレーションを考慮する必要があるため、再配置との組み合わせによる最適化は非常に難しくチャレンジングな問題である。

しかし、事業者だけが自転車分布を均一化するよりも、利用者も参加することではるかに再配置業務が効率化されることがCitiBikeの例を見ても分かる。
世界中の自転車シェアリング事業者がインセンティブのプログラムを採用する日も遠くないように思える。

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